繋ぐ 経営者対談

2009.07.04 UPVol.7

オリーブの丘 ひぐち まり社長 株式会社ヒューマネクスト 浜本 亜実社長

『スペシャリストに学ぶ、”おもてなし”の本質』 (後編)

7回目となる経営者対談。今回は、ウエディングプロデュース界の草分け的存在であり、おもてなしのスペシャリスト、オリーブの丘 代表 ひぐちまりさんと、企業価値を高めるサービスブランディングを手掛ける、株式会社ヒューマネクスト 代表取締役 浜本亜実さんをお迎えし、「おもてなし」をテーマに語っていただきました。

みなさんは、“おもてなし”についてどのようなお考えをお持ちですか?“おもてなし”に正解はありませんが、今回の対談を通じて数々のキーワードが飛び出しました。そのキーワードを意識することで、自己流の“おもてなし”により深みが増すのではないでしょうか?

  • 経営者対談

  • 経営者略歴

【おもてなしにかたちはない】
 
今野       “自然体”という話題で、ふと思い出したことがあります。私は岩手県
          の出身で、高校卒業してリクルートに入社したのですが、会社から内
          定が出た冬、わざわざ採用担当の方が学校まで挨拶に来られたんで
          す。その後、私の実家にも挨拶にと急に言われまして。当時は携帯
          電話もメールもありませんから、連絡しようもない。母は日中畑に出て
          農作業をしていますから、自宅に電話しても連絡がつかないんです。
          結局何の連絡もせぬまま、担当の方をお連れするしかありませんで
          した。
 
          案の定、母は畑から慌てて戻ってくる感じになって。慌てた母なりの
          精一杯のおもてなしは、なんとインスタントラーメン、忘れもしないチャ
          ルメラでした(笑)、それからご飯とたくあん。「そりゃあ、ないだろう」
          って心の奥で叫びましたよ!顔から火が出るくらい恥ずかしかった
          ことを今でも覚えています。
 
          でも、もっとすごいのが採用担当の方でした。母が出したラーメンを見
          てですよ、「うああ、美味しそうですね。お腹空いてたんですよ!」と
          おっしゃって、パクパクと美味しそうに勢いよく食べ始め、全部平らげ
          て「すごく美味しかったです、ご馳走様でした」と。
 
          帰りに、途中までお送りする道すがら、「(今野君の)お母さんのおもて
          なしは最高だな。すごく感動したよ」っておっしゃるんですよ。

経営者対談

浜本社長    おもてなしはやはり想いに宿るのですね。
 
今野       そういうことなのかもしれないですよね。しかも、その方はこの出来事
          をずっと、もう30年も前の話なのに憶えて下さっていて、先日お会い
          した際も「普段通りのものを出すって、最高のおもてなしだよ」っておっ
          しゃって下さいました。
 
ひぐち社長   そう思える、その方が素晴らしいですよね。私にも似たような経験が
          あります。銀行に勤めていたときに知り合った友人の話です。その
          友人は非常に裕福で、愛用車は外車、普段から高級レストランで食事
          をするような人でした。ある時、その友人の遊び仲間の方が私たちを
          ご自宅に誘って下さったことがありました。
 
          その方には奥様とお子さんがいて、お子さんはまだ小さい。お邪魔する
          と、ギャー、ギャー泣いていて、部屋も少々散らかっているような状態
          でした。まあ、子どもが小さいと部屋を整然と保つことは難しいです
          から。
 
          しばらくして、「どうぞ」と奥様が食事を用意して下さったんです。その
          お食事がですね、言葉は悪いのですが、子ども用のメニューみたい
          なものだったんです。ミニハンバーグとかタコ風のウィンナーとか。
          正直言って、私はちょっと驚いたんです。人を招待した際に振る舞う
          メニューなのかなあと。
 
          ところが、横にいた私の友人は、「うわーっ、タコさんウィンナーだ!
          嬉しいなあ。凄く美味しそう!」と言ってすぐに食事に手を付け始めま
          した。私は、その行動にまた驚いてしまいました。
 
          でも、ハッと気付かされたんです。人を自宅に招くことって、色々と
          大変なこと。場合によっては、いつもより念入りに掃除をしたり、食材も
          多めに用意しておかなければならないでしょう?手のかかる小さい子
          がいて大変な時期にもかかわらず、わざわざ私たちを招待して下さっ
          て、奥様なりの今できる精一杯おもてなしをしてくれている。そのことを
          ちゃんと知っているからこそ、どんなことも喜んでいる友人。おもてなし
          を素直に感じる、おもてなしを受ける側の気持ちや振る舞いも大事な
          んだということをその時に学びましたね。だから、見た目だけにとらわ
          れていた自分が非常に恥ずかしくなりました。
 
浜本社長    とても素敵なエピソードですね。おもてなしは、おもてなしされる側の
          気持も大事だということにもなりますよね。
  経営者対談
【おもてなしはコミュニケーション】
 
ひぐち社長   要は、おもてなしはコミュニケーションだって思うんです。おもてなしを
          する方もされる方も相手の気持ちを理解しているから成り立つもの。
          一方通行だと、おもてなしと理解されないかもしれない。「もしかして、
          私のことを気遣ってくれているのかな?」と気がつくことで、はじめて
          “おもてなし”が成立するのだと思っています。受ける側の感性もとっ
          ても大切ですね。
 
浜本社長    相手の好意を無駄にしないということですね。
 
ひぐち社長   そうですね。コミュニケーションだから、一方通行ではなく、両方通行。
          それによってお互いに心地良い時間を過ごせるようになるというか。
 
          例えば、エレベーターに乗る時の話なのですが、私はいつも、先に
          乗って『開』ボタンを押し、降りる時も最後に降りるようにしているんで
          す。それは、いつどこでお客様にお会いするか分かりませんので。
 
          でも、あるマナー講座を受講する機会がありまして、それをきっかけ
          に少し意識が変わりました。
というのは、相手の好意を受ける事も
          大切なマナーであることを知ったからなんです。
 
          ある時全員がエレベーターから降りる状況で、私は『開』ボタンを押し
          ながら、一人ひとりが降りていかれるのを見送っていました、エレベー
          ターガールでもないのに(笑)。無言で去る人もいれば、私の行動に
          気がついて軽く会釈する人、「すみません」「ありがとうございます」と
          言ってくださる方もいました。

          最後に降りようとした男性が私の背後に来られて、私の代わりに
          『開』ボタンを押し、「お先にどうぞ」と言って下さったんですね。マナー
          講座を受ける前の私だったら、「いえいえ、私は最後までボタンを押し
          ていますので・・・」ととにかく最後に降りようとしたと思いますが、相手
          の好意を受けることの大切さを学んだ私は「ありがとうございます」と
          言って先に降りました。
 
浜本社長    その男性はマナーを身に付けていらっしゃったのですね。
 
ひぐち社長   そうでしょうね。マナーを知らないからと言って大惨事になるような
          ことはないけれど、「この人は知っているんだ」とお互いを認識した
          途端、とても心地よい空気が流れ、お互いにどことなく幸せな気分を
          味わえる。だから、相手の好意に気づくとか知っているというのはすご
          く大事なんですよね。
 
今野       なるほど。受ける側も自然に受け止めて、おもてなしされやすい人に
          なるってことですね。
 
浜本社長    例えば、挨拶ひとつを挙げても同じことが言えると思います。挨拶し
          やすい雰囲気の方と挨拶しにくい雰囲気の方がいらっしゃる。行動す
          る側の心構えと同時に、受ける側の在り方も大切なのですね。自分
          自身もできているかと改めて見つめたいです。
 
ひぐち社長   そうすると、自分が一番得することにもなるような気がします。例えば、
          レストランでサービスマンを褒めれば、彼らだって嬉しいですよね。
           そうしたら、期待するわけではないけど、結果的に自分が過ごしやす
          い時間になるはずですから。
 
浜本社長    そういえば、以前ある外食企業で調査をしたことがあるんです。
          そこで興味深い結果が導き出されたんですよ。
 
今野       どんな結果だったのか気になりますね。
 
浜本社長    実際にお客様と接する現場スタッフに、「どんな人にサービスしたく
          なるか」という質問をしたんです。そうしたら、「いらっしゃいませ」という
          声掛けに対して、「こんにちは」とか「今日はよろしくお願いします」とか
          言う方がいるのですが、そういう方にスタッフ全員がサービスしたがる
          という結果が出来ました。

          それから、食事を終えて帰り際に「ごちそうさまでした、ありがとうござ
          いました」と言う方へも、再度来店された際にも顔をきちんと覚えてい
          て、サービスをしたくなるというのです。
 
今野       そうなんですか。これからの振る舞いに気をつけたいところです(笑)。
 
ひぐち社長   私の場合は、レストランに予約をする際に電話でもスタッフの方と
          コミュニケーションをとるようにしているんです。例えば、「●●さんの
          ご紹介でお電話しました」とか「大切なお客様をお連れするので・・・」
          とか。

          ちょっとしたコミュニケーションをすることで相手との距離を縮めること
          ができます。そうすることで自分が居心地のよい環境を作ってしまう。
          つまり、場を味方につけてしまおうということなんです。そうすれば、
          自分がリラックスしますし、一緒に食事する方もリラックスできて、
          一緒に楽しい時間が過ごせるでしょう?
 
今野       なるほど。参考にさせていただきます。
 
ひぐち社長   さきほどお話した幼稚園での結婚式も同じだと思うんですね。自分
           たちが一番リラックスできる場所だからこそ、来て下さった方々に最高
           のおもてなしが出来る。来て下さる皆を笑顔にできる自信を持てるとい
          うか。そこに関われるウエディングの仕事というのは、最高の仕事だと
          私は心から思います。
 
浜本社長    まりさんは、すごく素敵なお仕事されているなあとお話を伺っていて
          強く感じています。
 
【失敗したからこそ、語れること】
 
ひぐち社長   そう言っていただけると嬉しいですね。もし私が成長できているとした
          ら、半分は私の主人のおかげで、
半分はこの仕事のおかげだと心底
          思っているんです。
 
          ちょっと個人的な話になるんですが、私が外資系銀行に入社した理由
          は、自分は絶対結婚なんて出来ないだろうと思っていたからなんで
          す。すごく人見知りで、しかも人付き合いが下手で。だから、自分ひと
          りで食べていくには外資系企業で働くしかないと真剣に考えていた
          くらいです。
 
          それというのも、私の姉は病気の為幼い頃に耳が聞こえなくなり、
          両親は姉にかかりっきりだったんですね。大変そうな親をみて、子ども
          心に私は親に迷惑はかけないようにという意識をしていました。

          今から思うと人との関係の構築の仕方を分からずに成長してきたの
          かもしれません。その代わり、自立心だけは旺盛で、しっかりモノで
          通ってはいたと思います。人として信頼はされるけど、可愛げがある
          子どもではなく、一緒にいて楽しいというタイプでもありませんでした。
 
浜本社長    樋口社長の意外な一面を見せていただいている気がします。
 
ひぐち社長   私がどれだけコミュニケーションが下手だったかが分かるエピソードを
          お話しますね。銀行に一般職で入社したものの資金部に転部となり、
          世界が一変したんです。部の私以外のスタッフは全員英語が堪能でし
          たから、とにかく仕事をするためには英語力が必須。なんとか独学で
          と毎日勉強していたら、香港オフィスにいる先輩で、エルシーという
          女性社員が仕事上で色々とサポートをしてくれたんですね。「マリは、
          英会話スクールを行かせたら、もっと仕事ができるから」と上司に口添
          えまでしてくれて。そのおかげで、語学学校に通わせてもらい、少し
          ずつ仕事もスムーズに回るようになっていきました。
 
          ある時、エルシーが「香港に遊びにおいでよ、うちを宿泊所にすれば
          いいから」と誘ってくれました。彼女はわざわざ3日間も会社を休み、
          香港の色々な場所を案内してくれたんですね。 ある日海沿いをドライ
          ブしながら、エルシーが「ねえ、見てみて!すごい夕日でしょう?」って
          いうのです。

          確かに夕日は綺麗でしたが、それに対して私は「ふーん」と返答。
          そうしたらね、仕事上でもこれまで一度も怒ったことのないエルシーが
          車のダッシュボードをたたきながら、「あなた本当に大丈夫なの?
          私は会社を休んであなたに付き合って、この景色を見せたくて車を
          走らせてきたのに!それなのに『ふ~ん』っていう態度はないんじゃ
          ないの?」と声を荒げたのです。自分自身の行動にハッと気づいた瞬
          間でした。
その瞬間、自分が人の心を感じる機能を完全にオフにして
          いることに気付きました。
 
          結婚にしても同様で、夫とは年齢が離れていて、価値感も違う、だか
          ら結婚してもうまくいかないと勝手に思い込み、いつ別れることになっ
          ても大丈夫なようにと結婚式を挙げても7年間、入籍しなかったり。
          そもそも結婚式も挙げるつもりはなかったくらいでしたし。
 
今野       人の人生って面白いものですよね。目の前にいるまりさんからは、
          まったく想像できないようなタイプだったわけですね。
 
ひぐち社長   そういう自分が『結婚っていいな』というテーマでブログを書いていて、
          ホスピタリティとは何ぞやという話をさせていただいていることも本当
          におかしな話です(笑)。
 
経営者対談

浜本社長    だからこそ、まりさんのお話には説得力があります。本日も学びが多く
          て、ノートが文章でびっしりと埋まっています。
 
ひぐち社長   もし私がとても幸せな環境に育ち、努力しないで人とうまくやっていけ
          る子だったら、こうやっていろんな方の前でお話することなんてなかっ
          たんだろうと。

          これまでの人生でも、失敗ばかり。でもどうにか脱出したくて本を読ん
          だりして、それでもうまくいかないこともあり、とにかく私にとって人間
          関係はうまくいかないことだらけだったわけですよ。その中でどうやっ
          たら、自分が人の役に立てるようになるかと愚直に向き合ってきたか
          らこそ、今の仕事ができていると思っています。結婚式の仕事に私は
          少しずつ育ててもらったと思っていますから、その過程で感じたこと、
          学んだことなど、私が伝えられることは人に伝えていきたいと思うよう
          になりました。
 
今野       苦労してきた人でないと人に教えられないということですね。
 
ひぐち社長   きっとそうだと思います。実は、少し前まではおもてなしについて語る
          のも抵抗があったんですね。カーター元大統領を招いたレセプションに
          ついても、その時にたまたま社長秘書だったから関わらざるを得なか
          っただけだと思っていましたし、人との関係もきちんと構築できなかっ
          た人間だったわけですから、人様の前でどんな顔をして「おもてなしと
          は?」と話せばいいのかと葛藤がありました。
 
          でも、ある時気づいたんです。色々と事例を出して話ができたり、噛み
          砕いて話せるのは、自分がとても苦手だったからこそ、一生懸命学び、
          覚えてきた成果なのだと。その時に、初めて「人前で話してみよう」と
          思えるようになりました。
 
          若い人たちの中には、気持ちはあるのだけど自分がどうしていいのか
          分からないとか、物の見方が変われば生きやすくなるだろうなと思わ
          れる人もいますよね。そんな人たちに「実は私もそうだったのよ」なん
          て話ができると、自分で苦労したかいもあるのかなと思ったりしてい
          ます。
 
今野       それは非常に共感できますね。私もリクルートに入社した当初はマネ
          ジメントが全く下手でしたから。それが今、その時の裏がしとでも言う
          のでしょうか、今はお客様にマネジメントを提案する立場になってい
          ますから。
 
浜本社長    その道のプロフェッショナルから失敗した貴重なご経験を伺えることで、
          親近感や共感が生まれ、そこから深い思いが伝わるのだと改めて思
          います。
 
ひぐち社長   まだ年齢的に若いマネジャーが、あれもこれもできないって悩んだりし
          ているんですね。でも私はよく言うんです。「良かったね。それを自分
          できちんと覚えたら、次の人に教えられるね。それが貴方の財産に
          なるね」と。最初から何でもかんでも出来る人はそういませんし、天才
          だったとすれば人には教えられないと思うんですね。苦労した経験が
          あるからこそ、その苦労から脱出したノウハウを人に伝えることができ
          るんです。
 
浜本社長    素敵な言葉ですね。とても勉強になります。私自身も幼少期から失敗
          をする自分を認めることができずに、常に完ぺきを目指し、走り続けて
          きました。でも自分自身を認めることができないと自己重要感を感じる
          ことができないことばかりか、周囲にまで完璧を求めるようになってし
          まうこともあります。そんなあり方が周囲を傷つけてしまうこともあり
          ます。

          だからこそ、今は、自分も周囲もありのままの姿を理解し認めながら、
          その上で目指すところに向かう努力を愚直に続けていきたいと思って
          おります。
 
今野       なるほど。今日は“おもてなし”がテーマでありながら、かなり深い話
          までお聞きすることができ、非常に面白い対談となりました。お二人
          からお聞きした大事なキーワードを意識して、仕事に生活に向きたい
          ものです。今日は本当にありがとうございました。

経営者対談

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経営者略歴

オリーブの丘 代表
ひぐち まり氏 (Mari Higuchi) 

外資系銀行・建築企画会社を経て1988年より、ブライダルに携わる。
1987年にはジミー・カーター第39代アメリカ合衆国大統領を迎えたプライベートレセプションを担当した経験もあるおもてなしのスペシャリスト。
現在はウエディングプロデュース界の草分け“オリーブの丘”代表。 新郎・新婦の立ち居振る舞いレッスンや、人間力アップに重点をおいたプランナー養成講座は、ランクアップを求める人たちに人気。
他にも結婚式場・ホテルのコンサルティング、セミナー講師、パーティ文化を広めるためにパーティ開催など幅広く活躍。
日本ブライダルプロトコール協会の代表、日本プロトコール&マナーズ協会理事、エコールドプロトコールモナコ アドヴァイザーも務めている。

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株式会社ヒューマネクスト 代表取締役
浜本 亜実氏 (Ami Hamamoto) 

シャネル(株)で長年培った美容知識を活かし、化粧品、ジュエリーブランドのPRにも携る。
その後、六本木ヒルズ(複合施設)の立ち上げに参画し、ヒルズ内で働くスタッフ数千名の研修にはじまる街全体のCS事業や会員制クラブの運営事業を担当する。

2005年独立。株式会社HUMANEXT設立。教育コンサルティング・サービスプロデュース事業を展開。

浜本亜実社長のインタビューを読む

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