語る 経営者インタビュー

2010.11.29 UPInterview Vol.115

株式会社ジーエスアイ/GSI Co.,Ltd. 代表取締役 橋爪 謙一郎氏

故人や遺族を支える方々のネットワークと拠り所作りを目指して! (前編)

今回は、日本におけるエンバーミングの第一人者である株式会社ジーエスアイ代表取締役の橋爪謙一郎氏のインタビューをお届けいたします。橋爪氏は、1994年に渡米し、ピッツバーグ葬儀科学大学に入学。2001年に帰国し、グリーフサポート(遺族の心のケア)およびエンバーミング(ご遺体の修復・化粧、殺菌・消毒、防腐処置などを行う、その一連の技術)を日本に広めるべくまずは教育機関の立ち上げに関わりました。その後、2004年に株式会社ジーエスアイを設立し、現在はエンバーミングを施すエンバーマー育成に力を注ぎ、また葬祭関連業者向けコンサルティングや講演を精力的に行っていらっしゃいます。会社設立までの経緯や思い、今後のビジョン・現在の経営課題などもお伺いしました。

  • 経営者インタビュー

  • 経営者略歴

  • Company data

さて、橋爪社長の経営されている株式会社ジーエスアイという会社は、実にユニークな事業内容の会社ですね。私の知りうる限り、日本にこのような事業内容の会社はないんじゃありませんか。

ありませんね。何しろ事業内容が「エンバーミング」と「グリーフサポート」ですからね。この言葉自体も日本ではまだまだご存知ない方が多いと思うんですよね。エンバーミングというのは、お亡くなりになった大切な方とのより良いお別れのために、ご遺体の修復・化粧、殺菌・消毒、防腐処置などを行う、その一連の技術のことです。また、もう一方のグリーフサポートとは、死別によって引き起こされたご遺族の悲しみを癒し、さらには大切な人がいない環境を受け入れ、自らの力で生きる喜びを再び持つことができるように、サポートしていくことを言います。それぞれまだまだ歴史の浅い分野ではありますので、まずもってそうした考え方を知っていただくこと、そしてサービス提供の体制を作っていかなくてはならないと考えています。

それぞれの詳しい内容などについても、後々お聴きしていきたいと思うのですが、お聞きしていますとどうも、一般的な受け止めかたとしては葬儀というものの延長上のようにも感じられるんじゃないかと思いますし、映画「おくりびと」で有名になった納棺師のように、組織的と
いうよりは個人技の世界のように感じられます。実際、エンバーマーなどは漫画「死化粧師」のモデルになり、それがドラマ化もされて話題にもなったようですね。そうした仕事について株式会社として運営されていることにも非常に興味がありますね。

そうですね。まだまだ認知度が低いというお話をしましたが、おっしゃるとおり葬儀社に所属して施術することが今の日本のエンバーマーの姿ですね。それ自体悪いこととは思いませんが、そうした付随した姿のままでは、なかなか存在感も上がってこないのではないかと思っているんですよね。エンバーマーというのは、今野さんにおっしゃっていただいたように、漫画では「死化粧師」という名前になっていますが、ひとつの職業として確立されているとは言えませんね。日本では毎年100万人ぐらいの方が亡くなっていると言われていますが、そのうちエンバーミングを施されているのは2万人くらいのものだと思います。50分の1ということですね。これでは、誰も知らないのと一緒です。私が始めた頃は、そのまた半分の1万人程度でした。なぜ増えていかないかを考えていくと、単純に日本人のエンバーマーがいなくて、施設もないという問題に行き着くんですね。ひとつの職業として確立しなくてはいけないということです。

kataru115_1.jpg

橋爪さんが帰国して取組みを開始する前から、日本にエンバーミングの技術は存在していたのでしょうか。

ありました。しかし、それはほとんどがアメリカ人とカナダ人を招聘してやってもらっているのが実態だったんですね。ここには決定的に難しい問題が存在するわけなんですね。言葉の問題です。言葉のニュアンスが伝わらないということです。「故人はこんな人で、こんな化粧をしてほしい」という要望を持っていたとしても、それを正確に伝えることができないんですね。例えば「自然な感じで、ナチュラルメークで・・」と言ったとしても、一人ひとりの中にある基準は違っていることが多いわけです。結局「化粧がひどいから直してくれ」というクレームになる。これでは意味がないわけです。日本人のエンバーマーを養成して、ひとつの職業として確立させたい。そのためにはきちんとした教育機関が必要です。そしてひとつの職業として確立していくことが絶対に必要だと思ってきました。そうした教育プログラムでエンバーマーを養成すること。そして、非営利団体ではなく、きちんとこの分野で収益を上げる株式会社にすることで、社会的な認知も上げていきたいと思いました。

今、日本には何人のエンバーマーがいらっしゃるのですか。


約100名です。そのうちの約80名が私の教え子です。念願だった日本人のエンバーマーが、増えてきているのはとてもうれしいことです。日本全国にある葬儀社の社員として、エンバーマーという職業で働いているわけです。そうした施設は全国に30ヶ所ほどあるのですが、それが一部の都市に集中しているのが現状です。これをまだまだ増やしていきたいんですよね。今野さんがさっきおっしゃっていただいたように、漫画「死化粧師」のモデルとなりまして、それがまたドラマ化もされまして、そうしたことはとてもありがたいことですね。今回、今野さんに声をかけていただいてMG-NET+のインタビューに取り上げていただけることも大変ありがたいことです。しかも「経営者インタビュー」という形で扱っていただくことは、先ほどお話しましたように、企業経営にこだわってやっていきたい私としては、とりわけありがたいことです。ぜひ皆さんにご興味を持っていただきたいと思います。

そのあたりの意義について、社員の皆さんと共有していくことが重要でしょうね。


そう思います。まだ残念ながら10名にも満たない小企業ではありますが、「エンバーミング」と「グリーフサポート」を広めていくこと、日本で当たり前の存在になり、遺族の癒しの道が大きく広がっていくことに大いなる使命感を持って取り組んでいきたいと思います。

失礼ながら、既存の事業と違いなかなか将来の経営計画などを描きにくいのではないかと思いますが、いかがなんですか。


難しいのは事実なのですが、新しい分野でわからないからこそ、経営者が意思を持って計画して実行していくことが重要だと思っています。会社組織でやっていこうと決意したのは、34歳の頃でした。決意はしてもどうやって会社を作ればいいかわかりません。たまたま大前研一氏が主宰しているアタッカーズビジネススクールの存在を知り、入学して勉強を始めました。魅力だったのは、最終的に事業プランの立案をして、最終選考の3名に選ばれると、大前研一氏のコンサルティングを直接受けることができる権利が手に入るということでした。事業プランの独自性が買われたのかどうかはわかりませんが、最終選考の3人に選ばれまして、大前研一氏のコンサルを受けることになったのですが、思うようにいかないものですね。「こういうビジネスが存在するんだね。自分は知らなかった。だから君にアドバイスはできない」と言われました。それ自体は残念だったのですが、僕の手元にはその時の事業計画書が残り、それが今でも実は生きているんですよ。

そうなんですか。それは一つのドラマですね。その事業プランどおりに経営されているということですね。そこにはすでに、エンバーミングとグリーフサポートのセミナー事業ということは謳われていたのですか?


もちろん細部は状況によって変わってはきますが、基本的な考え方、骨子はその当時のものです。今でも専務が大事に持っていてくれて、そこに書いていることを元に経営しているのは事実です。これまで、時々その2つの事業から離れそうになったこともあるのですが、よくよく考え抜いて話し合うと必ずこの2本柱に戻って来ることになるので、もうここからは外れないようにしようと言っています。そういう意味で、あの当時勉強したことは、大前さんのコンサルティングは別として(笑)本当によかったと思っていますし、その時の事業計画書は宝物です。

なるほど。企業経営には、創業の精神、設立の原点を忘れないということも非常に大切なことだと思うのですが、非常に納得させられますね。事前に資料も拝見したのですが、事業の成否はエンバーミングというもの、そしてグリーフサポートという考え方をいかに本来の意義も含めて世の中に知らしめることができるかにかかっているように感じます。単に人数を増やしたり、広く普及させていくだけではなく、「理解を深める」ということも必要なことでしょうね。


まったくその通りだと思います。既存のセンターは葬儀社の社員としてのエンバーマーが活躍しているという話をしました。そうした既存のセンターとは一線を画したセンターを作り広めていくということ、我々の理想とするエンバーミングが広がることが、近い将来の理想の姿です。それはまったく今野さんのおっしゃるとおりです。違いは何かと言いますと、これまでのところは葬儀社に所属しておりますので、ご遺族との接点はエンバーマーじゃなくて、葬祭ディレクターなんです。やりとりはディレクター、処置はエンバーマーという切り分けです。理想の姿は、訓練されたエンバーマーが自分でご遺族と接点を持って、ご遺体に関しては責任を持ってケアをし、話もするということです。そのやり取りの全てが「グリーフサポート」にも繋がっていなくてはならないという考え方なんです。

処置の方法だけではなく、心理学やコミュニケーションスキルも学んでいる意味はそこにあるわけですからね。


そういうスキルを学んでいないと絶対に駄目ですね。たとえ話になりますが、手術をする時に、他の人が全部打ち合わせをして、執刀だけをまったく別の医者がするということになったら、まったく信じられないという話になりますよね。いいお医者さんは、患者との接点もすべて自分で持つものなわけです。世界の名医と言われている心臓外科の先生とか脳外科の先生は、きちんと話を聞いて診察して、「大丈夫だから、ドクターに全部任せて」ということになって安心するわけですし、それだからこそ手術もうまくいくわけですね。信頼関係が全てのベースになるということですね。顧客満足の基礎は絶対にコミュニケーションが必要で、相手のことをどこまで知っているかによって満足度も当然違って来るというのは、どんな商売でも一緒だと思うんですよ。

そうすると、葬儀社の方はディレクターでもありエンバーマーでもあるという存在が理想形になるんでしょうかね。


そうできれば理想的ですね。アメリカで経験を積んでいた時には、私はエンバーマーでもありディレクターでもありました。葬儀の打ち合わせを全部します。上司は言っていたものです「打ち合わせを単なる“段取り”だと思うなよ」と。「決めるためのチェックリストができていて、それを端から決めていくだけの段取りじゃだめなんだ」と。「お前の取組み姿勢次第で、遺族のカウンセリングにもなるんだ。悩みが解決されて、ご自分の中に抱えたものを全部吐き出して、ひとしきり泣いて、すっきり元気な顔をして帰っていけるかはお前次第なのだ」と、ずっと言われ続けていましたので、そうした考え方を、ぜひ日本でも実現したいと思っているのです。

kataru115_2.jpg

本来の意味でのエンバーマー、グリーフサポートも教育をきちんと受けたエンバーマーを全国に配置したいということですね。アメリカというモデルを熟知されていることが橋爪社長の強みですね。逆に壁となっていることはどんなことですか。

そうですね。成功例が見えていますからね。文化の違いなどにあまり左右されない世界なのではないかとも思っていますので、ぜひ日本でも定着させたいと思っています。しかし、壁が立ちはだかることも事実です。最も高い壁は意識の変革ですね。我々の思いは「すべてはご遺族のグリーフサポートを重視して」というところにあるのですが、その意識を理解していただけないことも多いのです。「どうせ火葬してしまうのに、なんでそこまでやる必要があるのか」という、「どうせ火葬」という意識は強いのです。また、業界の中でのエンバーミングというものへの風当たりも、一頃に比べて弱まったとは言え、まだまだ根強くあります。ライバル関係と言えなくもないわけですし、エンバーミングの分のコストアップへの抵抗感を前面に出されるようなところもあります。その根底にある考え方はだいぶ理解されるようになってきましたが、まだまだ努力が必要だと思っています。

最も大事なのは、「ご遺族の心」ということですね。


おっしゃるとおりです。ご遺族の心を否定できる人はいません。それを否定したら、そもそも自分達の存在価値はなくなってしますのですから、その点を考えなくてはなりません。最終的な目的はあくまでもグリーフサポートにあるわけですから、エンバーミングというものもその一部であるという考え方です。グリーフサポートの対象はご遺族ということになりますが、その周辺に葬儀社のディレクターがいて、エンバーマーがいて、看護師がいるということになります。こうした周辺の人達もご遺族の悲しみの影響を受けて、それを背負ってしまっているという状況があるんですね。私たちのカリキュラムでは、こうした周辺の人達への教育の中で、ご本人達の内面のケアまですることにしています。6日間のカリキュラムのうちの2日間は、セルフケアのためだけに時間を費やします。ストレスチェックをしたり、カウンセリングをしたり、こうした関係者の方々を元気にするために色々なことをして復帰していただいて、また新たなご遺族を支えていただく。グリーフサポートは、ご遺族をサポートするために、ご遺族ご本人方とその周囲の人達をもケアしていくということですね。

先ほどのエンバーミングについてのビジョンは、全国に本来の意味のエンバーマーを増やし、そうしたセンターを全国に作っていくということでしたが、グリーフサポートに関してのビジョンはいかがですか。


「ネットワークを作っていく」というのが、一つの考え方ですね。故人の死を境にして、前の人と後ろの人が、今は病院は病院、葬儀社は葬儀社と分離してしまっているんですね。そこをもっとネットワーク化することによって、ご遺族をもっと効果的に支えていくことを実現したいと思っています。そのハブに我々がなることができればと考えています。そのための手段がカリキュラムであるし、将来はグリーフサポートセンターのような形で、支える人達の拠り所になりたいですね。ネットワークのハブとして、支える立場の人達が燃え尽きたときに戻ってこられる場所を作ってあげたいと思うのです。今回のご縁をいただいて、今野さんのMG-NET+(マグネットプラス)のサイトを見させていただいたら、私たちが大切にしたいと思っていると同じことがいっぱい出ていて驚きましたし、うれしく思いました。「繋ぐ」と書いてあったり「語る」と書いてあったり、「集う」と書いてあって、そこが互いに学ぶ場にもなっているという。共感しましたね。植物や生態系も皆そうですが、色々な種類の人達がそこに存在して、互いの存在を認め合って、支え合っていくことがとても重要だと思うのです。このグリーフサポートというものを、私たちだけで取り組むのではなく、志や哲学に共感し合いながらも、違う知識や、手法、経験を持った人が、色々な場で支援活動ができるようになればいいと思っています。そういう人達の戻る場としてのハブになって、その人達が再度元気になって戻っていくセンターのイメージが先ほど申し上げたイメージということです。そうすれば世の中自体をもっともっとよくしていくことにも貢献できるとも思っています。

素晴らしいビジョンですね。その実現をぜひ応援させていただきたいと思いますし、何か一緒に関わることができればうれしいですね


後編は12月6日(月)より公開致します。 お楽しみに!

ご意見・ご感想をお待ちしています

経営者略歴

株式会社ジーエスアイ/GSI Co.,Ltd. 代表取締役
橋爪 謙一郎氏 (Hashizume Kenichiro) 

1994年に渡米。ピッツバーグ葬儀科学大学卒業後、フューネラルディレクター国家試験に合格、さらにジョン F .ケネディ大学大学院にてグリーフケアに関する修士号を取得。2年間のインターンシップを経てカリフォルニア州エンバーマーライセンスを取得し、2001年に帰国。日本におけるエンバーマー育成に力を注ぎ、また葬祭関連業者向けコンサルティングや講演を精力的に行う。葬祭業における実務経験と知識を持つ、グリーフサポートおよびエンバーミング普及の第一人者。

カリフォルニア州エンバーマー (ライセンスEMB 8712)
フューネラルディレクター(全米国家資格)
日本トランスパーソナル学会 理事

Company Data

社名 株式会社ジーエスアイ/GSI Co.,Ltd.
所在地 〒103-0011
東京都中央区日本橋大伝馬町12-17
代表者 代表取締役 橋爪 謙一郎
設立 平成16年1月
業務内容 【グリーフサポート事業】
グリーフサポートを主とした業務コンサルティング
グリーフサポートを主とした講演会の実施/書籍出版
グリーフケアカウンセラーの教育プログラム作成
グリーフケアカウンセラーの人材教育・育成・研修

【エンバーミング事業】
エンバーミング・修復・メイク
エンバーミングセンター設立・運営・管理
エンバーマー育成
エンバーミング教科書作成
施設保有事業者および関連事業者に対する教育・研修
海外移送必要書類作成および手続代行
URL http://www.griefsupport.co.jp/index.html

このページのトップへ戻る

語る 経営者インタビュー

各コンテンツ 最新記事

ブログ今野誠一のブログ
ブログ更新一時中断中(まもなく再開します)
語る経営者インタビュー
パーソナルスタイリストのプロフェッショナルとして 有限会社ファッションレスキュー
代表取締役社長 政近準子 氏
繋ぐ経営者対談
経営者に聞く!事業継承の真髄とは? 水島達也 社長 × 関田勝次 社長
集うイベント・セミナー
モスバーガー成長の軌跡 株式会社モスフードサービス
専務取締役 田村茂 氏
今野誠一のパーソナルライフ今野誠一のパーソナルライフ
120511 「多士済済」「智勇兼備」「跳梁跋扈」[漢字力白状伝]